裁量労働制の労働時間の把握

Q. 当社では、裁量労働制の導入を考えています。労働時間は本人の裁量に委ねる制度であることから、会社としての労働時間の把握は行わない予定ですが、問題はないでしょうか。

A.裁量労働制であっても適切な労働時間の把握は必要となります。


裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」があります。

専門業務型裁量労働制とは、新商品・新技術の研究開発、情報処理システムの設計、記事の取材・編集、放送番組のプロデューサー・ディレクター業務、デザイナー、ゲーム用ソフトウェア開発、証券アナリスト、金融商品開発、大学における教授研究、公認会計士業務、弁護士業務など、極めて専門性の高い、会社又は管理者がその業務の性質上、その業務に関して細かな指示を出したり、時間配分を決定したりせず、むしろそのような専門性の高い労働者の自主性と裁量に任せた方が成果が期待される業務について、実際に働いた時間にかかわらず労使協定又は労使委員会の決議によって定められた一定の時間を働いたものとみなす制度です。

企画業務型裁量労働制とは、本社・本店など会社の運営上重要な決定がなされる事業場で、会社全体に関わる企画・立案・方針の策定を行う業務、具体的には、会社全体の経営状態・経営環境の調査分析、社内組織全体の問題点の把握調査分析及び新たな社内組織の編成、会社全体の人事制度の問題点の把握調査分析及び新たな人事制度の立案策定、会社全体の財務状況等の把握調査分析及び財務計画の策定、会社全体の営業成績・活動上の問題の調査分析及び新たな営業方針・営業計画の策定、生産効率や原材料等に係る市場調査分析及び原材料等の調達計画・生産計画の策定などの業務について、上記と同様に会社が業務の細かな指示をしたり、労働時間の配分を決めたりせず、その労働者の自主性と裁量に任せておいた方が成果が期待される場合に、労使協定又は労使委員会など、決議によって定められた一定の時間を、実際に働いたか否かにかかわらず、働いたものとみなす制度です。

例えば、「1日の標準的な労働時間」を労使協定で「8時間」と定めた場合、実際の勤務時間が7時間であっても、9時間であっても「8時間」労働したとみなされます。

(裁量労働制の具体的対象業務についてはコチラ(厚生労働省))


ところで、労働者が自己の業務の都合に合わせて自主的に労働時間をコントロールできることや、その労働者の実際の勤務時間にかかわらず、会社が労働時間(深夜業を除く)について厳密に把握する必要のない裁量労働制については、働き過ぎが懸念される制度とも言えます。

このため、平成15年に裁量労働制の適用を受ける労働者について、健康不安を抱える労働者が増加している状況に鑑み、企画業務型裁量労働制における健康・福祉確保措置を、専門業務型裁量労働制の労使協定においても以下の事項を定めることが必要とされました。(労働基準法の一部を改正する法律H16.1.1施行)

 ① 対象労働者の勤務状況を把握する方法を具体的に定めること。
   (タイムカードの導入、始業・終業時間の把握など)
 ② 把握した勤務状況に応じ、対象労働者にどのような健康・福祉確保措置を講ずるか
   明確にする。

従いまして、裁量労働制を導入するに当たっては、標準的な労働時間の設定と仕事量が適切かどうか、運用状況の調査把握はもとより、結果として長時間労働を誘発し、様々な健康障害をもたらしたり、最悪のケースでは過労死のリスクまで想定して、適時仕事量を調整するなど留意が必要です。また、裁量労働制だからといって、労働時間を全く把握しないことは、長時間労働を把握しないこととなり、健康への安全配慮がなされていないと判断されかねません。そもそも、会社には労働者に対する安全配慮義務があります。

健康・福祉確保措置を講じることによって、長時間労働に起因した過労自殺などを未然に防止し、また、苦情処理措置を講じて、対象労働者の不満や不安を解消していく姿勢が会社には求められています。

以上のことから、裁量労働制を導入するに当たっては、会社が安易に労働時間の把握は必要ないと考えることだけは避けなければなりません。


2018年03月20日